PEEK樹脂とは?材質・特徴・使用例を詳しく解説
産業分野において高機能材料として注目されている樹脂のひとつに、PEEK樹脂があります。
PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)は、スーパーエンジニアリングプラスチックの代表格であり、
高温環境下でも優れた機械強度や耐薬品性を発揮する、高性能樹脂として広く利用されています。
特に、自動車・航空宇宙・半導体・医療分野など、
極めて過酷な条件下でも安定した性能を維持できる点が大きな魅力です。
本記事では、PEEK樹脂の材質や特徴、長所と短所、加工方法、使用例、
さらには他のスーパーエンプラとの違いまで、詳しく解説します。
PEEK樹脂を検討している方や、金属代替材として採用を考えている方は、ぜひ参考にしてください。
目次
1、PEEK樹脂(ポリエーテルエーテルケトン)とは?
PEEK樹脂は、1970年代に英国ICI社によって開発された芳香族系ポリケトン構造を持つ高性能樹脂です。
350℃を超える融点を有し、連続使用温度が250℃程度まで対応可能という、
プラスチックの中でもトップクラスの耐熱性を誇ります。
また、耐薬品性・耐放射線性・耐摩耗性にも優れており、
「金属を超えるエンジニアリングプラスチック」として、各種精密部品に採用されています。
特に、軽量化や絶縁性が求められる場面では、金属の代替材料としての有効性が高く、
航空機エンジン部品、半導体製造装置部材、医療用インプラントなど、
ハイエンドな分野で活躍する素材です。
2、PEEKの材質
PEEKは結晶性の高いポリマーであり、分子鎖中に芳香族環・エーテル結合・ケトン結合を有する構造が特徴です。
この構造により、以下のような特性を発揮します。
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芳香族構造:高い機械強度と熱安定性
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エーテル結合:柔軟性と耐衝撃性の付与
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ケトン結合:優れた耐薬品性と剛性の確保
一般的に淡いベージュ色をしており、押出成形・射出成形・切削加工などに対応します。
また、炭素繊維(CF)やガラス繊維(GF)を加えた強化グレードも存在し、
用途に応じて高強度タイプ・耐摩耗タイプ・導電タイプなどが選択できます。
3、PEEKの主な特徴
PEEK樹脂の代表的な特徴は、以下のように整理できます。
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耐熱性が極めて高い:連続使用温度250℃、融点343℃
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機械的強度が高い:高温下でも剛性と強度を維持
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耐薬品性に優れる:酸・アルカリ・有機溶剤に対して非常に安定
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耐摩耗・低摩擦特性:摺動部品にも最適
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難燃性:自己消火性を有し、UL94 V-0に適合
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高絶縁性・低アウトガス性:電子・半導体分野に適する
このように、PEEKは「耐熱・耐薬品・強度」の3拍子がそろった高機能樹脂であり、
一般的なエンジニアリングプラスチックでは対応できない環境下でも使用可能です。
4、PEEKの長所
PEEKの主な長所を以下にまとめます。
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高温環境下でも安定した性能
→ 高温下(200℃以上)でも機械的強度がほとんど低下しません。 -
優れた耐薬品性
→ 酸・アルカリ・油類・溶剤に侵されにくく、化学プラントや分析装置にも使用可能。 -
優れた摺動特性
→ 潤滑剤なしでも低摩擦で動作し、摩耗しにくい。 -
高い寸法安定性と耐疲労性
→ 繰り返し荷重や熱変化にも寸法がほとんど変わらない。 -
クリーン性
→ ガス発生や溶出が少なく、半導体製造装置部品にも最適。
これらの特長により、PEEKは「金属に代わるスーパーエンプラ」として確固たる地位を築いています。
5、PEEKの短所
一方で、PEEK樹脂にも注意すべき点があります。
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コストが高い
→ 一般的なエンプラ(POMやナイロンなど)に比べ、材料単価が数倍以上。 -
加工が難しい
→ 高硬度で熱膨張が小さいため、切削や成形には高精度な条件設定が必要。 -
供給リードタイム
→ 高機能材料ゆえに在庫が限られることもあり、計画的な調達が求められます。 -
成形温度が高い
→ 溶融温度が高く、成形設備に耐熱対応が必要。
これらの要素を理解したうえで、使用環境やコストバランスを考慮した材料選定が重要です。
6、PEEKの加工方法
PEEKは熱可塑性樹脂であり、以下のような加工方法に対応します。
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射出成形:量産向けに最も多用。精密部品や機構部品に適する。
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押出成形:棒材・板材・チューブなどの素材供給に利用。
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切削加工:金属加工機での精密加工が可能。高精度部品に最適。
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圧縮成形:大型・厚肉部品に利用されることもある。
PEEKは熱変形が少なく、切削加工でも高い寸法精度を維持できます。
また、表面仕上げ性にも優れており、摺動部品・ギア・シールリングなどの精密機構部品に適しています。
7、PEEKの代表的な使用例
PEEK樹脂は、以下のような産業分野で使用されています。
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自動車部品:エンジン周辺部品、ベアリング、ギア、電装コネクターなど
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航空宇宙分野:軽量・高強度の構造部材、断熱・絶縁パーツ
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半導体・電子機器:ソケット、ウエハキャリア、絶縁部品
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医療機器:人工骨・脊椎固定具・手術用機器など(生体適合性グレード)
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化学装置・ポンプ部品:耐薬品・耐熱用途に対応
このように、PEEKは過酷環境での信頼性を求める産業で重宝されており、
高性能化が進む各分野において不可欠な素材となっています。
8、他のスーパーエンプラとの違い
PEEKは「スーパーエンジニアリングプラスチック」の中でも最もバランスに優れた樹脂のひとつです。
代表的な他素材との比較は以下の通りです。
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PEI(ポリエーテルイミド):PEEKより成形しやすいが、耐薬品性・耐摩耗性は劣る
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PPS(ポリフェニレンサルファイド):高温特性は近いが、靭性や耐衝撃性でPEEKが上
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PTFE(フッ素樹脂):摩擦は極めて低いが、強度・剛性・耐熱性ではPEEKが優位
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PI(ポリイミド):耐熱性はさらに高いが、成形や加工が難しくコストも高い
このように、PEEKは機械強度・耐熱性・成形性のバランスが非常に良いため、
「万能型スーパーエンプラ」としての地位を確立しています。
9、代表的なPEEK樹脂メーカー・ブランド
次に、国内で取り扱い実績のあるPEEK樹脂メーカー・ブランドについてご紹介します。
用途やグレードによって選定が変わるため、参考としてご活用ください。
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住友化学株式会社 — 商品名「スミプロイ®K(Sumiploy®K)」。国内におけるPEEK原料供給実績があります。
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ソルベイ・スペシャルティポリマーズジャパン株式会社 — 商品名「KetaSpire®」。航空宇宙・医療用途向け。
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三菱ケミカルアドバンスドマテリアルズ株式会社 — 商品名「ケトロン®1000 PEEK」など。
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東レプラスチック精工株式会社 — 商品名「TPS-PEEK」などとして、板材・丸棒などの素材提供があります。
同じPEEK樹脂でも、用途および加工条件に応じて、最適なブランド・グレードを選定することが重要です。
10、PEEK製品の選び方チェックリスト
PEEK樹脂を選定する際は、以下のポイントを確認しておくと効果的です。
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使用環境:温度・薬品・放射線・真空などの条件を明確に
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要求性能:強度・耐摩耗・絶縁・耐熱など、重視する特性を優先順位化
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加工方法:射出成形か切削かで、グレード選定が変わる
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添加材の有無:GF(ガラス繊維)、CF(炭素繊維)などの強化材有無を検討
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コスト・調達性:必要数量や納期を含めたトータルコストで比較
これらを踏まえることで、性能とコストのバランスが取れたPEEK部品設計が可能になります。
11、まとめ
PEEK樹脂(ポリエーテルエーテルケトン)は、
耐熱性・耐薬品性・機械強度のすべてにおいて高い性能を発揮するスーパーエンジニアリングプラスチックです。
自動車、半導体、医療、航空宇宙など、過酷な環境で使用される精密部品に幅広く利用されています。
木成ゴム株式会社では、
「PEEK樹脂で精密部品を加工したい」
「金属部品を軽量樹脂に置き換えたい」
「高温環境でも安定する素材を探している」
といったお客様のニーズに柔軟に対応しています。
豊富な加工実績と材料知識をもとに、材料選定から試作・量産までトータルサポートいたします。
PEEKをはじめとするスーパーエンプラ加工をご検討の際は、ぜひお気軽にご相談ください。



