PPS樹脂とは?材質・特徴・使用例を詳しく解説
産業分野において広く使用されている高機能樹脂のひとつに、PPS樹脂があります。
PPSは「スーパーエンジニアリングプラスチック」に分類され、
高温環境や厳しい薬品条件下でも優れた性能を発揮する樹脂です。
特に、自動車、電気・電子機器、化学プラント、精密機器などでは、金属代替材として採用が進んでおり、
軽量化や耐久性向上に大きく貢献しています。
本記事では、PPS樹脂の材質・特徴・長所と短所・加工方法・使用例、
他のスーパーエンプラとの違いまで詳しく解説します。
PPSの導入を検討されている方は、ぜひ素材選定の参考にしてください。
目次
1、PPS樹脂(ポリフェニレンサルファイド)とは?
PPS樹脂(ポリフェニレンサルファイド)は、
耐熱性・耐薬品性・寸法安定性に優れた高性能なエンジニアリングプラスチックです。
分子構造中に「ベンゼン環」と「硫黄(S)」を含み、この構造が高い結晶性と化学的安定性を生み出しています。
一般的なエンプラよりも高温下での強度保持に優れ、連続使用温度は200℃前後と非常に高いのが特徴です。
また、薬品・溶剤・酸・アルカリに対しても極めて高い耐性を示し、
化学プラントや電装品などの過酷な環境下でも性能を維持します。
そのため、PPSは「耐熱・耐薬品・寸法安定・電気絶縁性」が求められる産業で欠かせない素材となっています。
2、PPSの材質
PPSは結晶性の高分子樹脂で、主に以下の2種類があります。
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直鎖型PPS(Linear PPS):機械的強度や靱性に優れ、射出成形や押出成形などの加工に適する。
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架橋型PPS(Cross-linked PPS):耐熱性・耐薬品性にさらに優れているが、やや脆い。
また、ガラス繊維(GF)や炭素繊維(CF)を添加した強化グレードが多く流通しており、
強度・剛性・耐クリープ性を大幅に向上させています。
一般的には灰白色〜茶褐色で供給され、射出・押出・切削加工など幅広い成形手法に対応します。
3、PPSの主な特徴
PPS樹脂の代表的な特徴をまとめると以下の通りです。
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高耐熱性:連続使用温度約200℃、短時間なら260℃付近まで耐える
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耐薬品性:酸・アルカリ・溶剤に極めて強く、腐食環境でも安定
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寸法安定性:吸水率が非常に低く、精密部品にも最適
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難燃性:自己消火性を持ち、UL94 V-0クラスに適合するものが多い
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電気絶縁性:高温下でも優れた絶縁特性を維持
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クリープ性の低さ:高荷重下でも変形しにくく、長期信頼性が高い
これらの特性から、PPSは「エンプラの中でも特に信頼性の高い素材」として評価されています。
4、PPSの長所
PPS樹脂の強みは以下の通りです。
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優れた耐熱性と寸法安定性:高温環境下でも変形や性能劣化が少ない
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卓越した耐薬品性:酸・アルカリ・有機溶剤などほとんどの薬品に侵されにくい
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難燃性:自己消火性を持ち、燃えにくく安全性が高い
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電気特性の安定性:高温・高湿度下でも絶縁性能を維持
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高精度な加工性:切削・射出いずれにも対応し、精密部品にも適用可能
これらの長所により、PPSは「過酷環境下で使えるプラスチック」として、他素材からの代替が進んでいます。
5、PPSの短所
一方、PPSにも注意すべき短所があります。
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衝撃強度の低さ:硬い反面、衝撃や曲げに弱く脆性破壊しやすい
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価格が高い:一般エンプラに比べて原料価格が高め
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再成形性の低さ:高温で分解しやすく、再利用やリサイクルが困難
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成形時の注意点:高温での加工が必要で、金型設計や冷却制御が難しい
用途によっては、GF強化グレードなどを選択し、これらの弱点を補うのが一般的です。
6、PPSの加工方法
PPS樹脂は高温で軟化する熱可塑性樹脂ですが、非常に高い成形温度(約320℃前後)が必要です。
代表的な加工方法は次の通りです。
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射出成形:最も一般的。複雑形状の大量生産に適する。高精度部品に最適。
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押出成形:棒材・板材・パイプなどの素材成形に利用。
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切削加工:機械的強度が高く、精密な寸法仕上げに有効。
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圧縮成形:繊維強化グレードなどに利用されることもある。
また、成形後の寸法安定性が非常に高いため、切削・研磨などの二次加工性にも優れています。
7、PPSの代表的な使用例
PPS樹脂は、その優れた耐熱・耐薬品性を活かし、以下のような分野で活躍しています。
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自動車部品:電装コネクター、センサーケース、燃料系部品、EGRバルブ、ギアなど
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電気・電子機器:リレー、コイルボビン、スイッチ部品、プリント基板ホルダーなど
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化学・プラント設備:ポンプケーシング、バルブ、パッキンなど耐薬品部材
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産業機械:高温摺動部、精密ローラー、シール部品
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家電・OA機器:プリンター内部部品、コネクター、絶縁カバーなど
特に自動車の電動化・電子化の進展に伴い、PPSの需要は今後も増加が見込まれています。
8、他のスーパーエンプラとの違い
PPSはスーパーエンジニアリングプラスチックの中でも、バランスの良さで知られています。
代表的な他素材との違いを以下に整理します。
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PEEKとの比較:PEEKの方が耐熱性・耐衝撃性は上だが、価格が高い。PPSはコスト面で優位。
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PI(ポリイミド)との比較:PIは耐熱性最高クラスだが成形が難しい。PPSは成形性と寸法安定性に優れる。
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PAIとの比較:PAIは耐摩耗性に優れるが吸湿しやすい。PPSは吸湿が少なく寸法安定性が高い。
PPSは「高温・薬品・電気的要求をバランスよく万能型満たすスーパーエンプラ」として位置づけられています。
9、代表的なPPS樹脂メーカー・ブランド
日本国内では、以下のメーカーが代表的なPPS樹脂ブランドを展開しています。
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東レ株式会社(トレリナ®:Toray Torelina)
→ 高剛性・高耐熱タイプを中心に展開。電気・電子分野で高いシェア。 -
三井化学株式会社(テレジン®:Therlene)
→ 射出成形グレードや高流動タイプなど、成形加工性に優れたラインアップを持つ。 -
出光興産株式会社(イデミツPPS®)
→ 耐薬品性・寸法安定性に優れた直鎖型PPSを展開。電装・自動車用途に強み。 -
ポリプラスチックス株式会社(ジュラコンPPS® / Duranex PPS)
→ 強化グレードを豊富に展開し、グローバル市場で安定供給体制を確立。 -
住友化学株式会社(スミカPPS®)
→ 耐熱・耐薬品グレードを中心に、自動車・電気分野向けで高信頼性。
これらの国内メーカーはいずれも、安定供給・品質保証・グローバル対応を行っており、
用途に応じた最適なPPS材料を選定することが可能です。
10、PPS製品の選び方チェックリスト
PPSを採用する際は、以下の観点をチェックしましょう。
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使用環境:高温・高湿・薬品環境の有無
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要求性能:強度・剛性・電気特性・難燃性など
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加工方法:射出・切削・押出などの製造条件に適しているか
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添加材の有無:GF・CF強化タイプか、純PPSか
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コストと量産性:原料コストだけでなく、加工条件も含めて検討
これらを整理することで、性能とコストのバランスを最適化できます。
11、まとめ
PPS樹脂(ポリフェニレンサルファイド)は、耐熱・耐薬品・寸法安定性に優れたスーパーエンプラで、
過酷な環境下でも高い信頼性を発揮する素材です。
自動車や電装機器、化学設備など、さまざまな産業分野で今後も活躍が期待されています。
木成ゴム株式会社では、
「PPS樹脂で精密部品を加工したい」
「高温・高薬品環境に耐える素材を探している」
「他のスーパーエンプラと比較して最適な素材を選びたい」
といったお客様のニーズに対応しております。
豊富な加工実績と材料知識をもとに、材料選定から試作・量産までトータルサポートいたします。
PPSをはじめとするスーパーエンプラ加工をご検討の際は、ぜひお気軽にご相談ください。



