射出成形用材料について

本記事では射出成形用の材料についてご紹介いたします。
ご参考になれば幸いです。
1、汎用熱可塑性樹脂
・ポリエチレン(PE)
エチレンの重合により得られる結晶性樹脂です。
重合条件、触媒等により、低密度ポリエチレン(LDPE)、
高密度ポリエチレン(HDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)に分類されます。
成形性に優れており、吸水性、水蒸気透過性は小さいが、ガス透過性は大きいです。
また、耐薬品性は比較的良いですが、芳香族炭化水素や塩素化炭化水素には溶融します。
界面活性剤、動植物油等によりストレスクラックを起こすので注意が必要です。
電気的性質、耐寒性に優れますが、耐候性は良好ではなく、耐候性処方が必要となります。
・ポリプロピレン(PP)
プロピレンの重合体で結晶性樹脂です。
メチル基の配列で3種の立体規則性のポリマーが生成します。
成形性に優れており、HDPEと比較して耐熱性、強度、剛性等は大きいが耐衝撃性は小さいです。
また、耐熱水性、電気的性質、耐ヒンジ性に優れますが、耐候性は良好ではなく、耐候性処方が必要。
銅および銅合金に高温で接触すると劣化が促進されるので注意が必要です。
・ポリ塩化ビニル(PVC)
塩化ビニルを重合したホモポリマーが大部分で、共重合体もあります。
重合したポリマー粉末に安定剤、可塑剤などの添加剤を配合し、各種加工法で成形されます。
可塑剤の添加量によって、硬質・軟質の各種製品が得られます。
耐酸、耐アルカリ性は良好ですが、ケトン類、芳香族炭化水素には侵されます。
電気絶縁性、耐電圧、難燃性に優れますが誘電率が大きく、高周波絶縁性は良くありません。
ガスバリア性は比較的良好です。
・ポリスチレン(PS)
スチレンの重合により、非晶性で透明な一般用ポリスチレン(GPPS)と、
ゴムを加えた高衝撃ポリスチレン(HIPS)があります。
GPPSは、耐酸、耐アルカリ性、耐水性、成形加工性が優れていますが、
耐衝撃性、耐有機溶媒性には問題があります。
また、電気絶縁性に優れ、誘電特性もよく、温度依存性が少なく安定した電気特性を持ちます。
加えて剛性にも優れ、表面硬度も大きいです。
HIPSは耐衝撃性が改良されていますが不透明になります。
・エチレン・酢酸ビニル共重合体樹脂(EVA)
エチレンと酢酸ビニルの共重合体です。
柔軟性、ゴム弾性、低温特性に優れ、成形加工性、耐候性、耐水性にも優れています。
トルエン、ベンゼン、テトラヒドロフラン等には溶解しますが、
メチルエチルケトン、塩化メチレン、アセトン等には不溶です。
他のプラスチックにブレンドすると流動性、低温耐衝撃性が改良されます。
・エチレン・ビニルアルコール共重合体樹脂(EVOH)
EVAを完全に加水分解した結晶性樹脂です。
共重合比率と重合度を適切に選択すると優れた成形性と卓越した性能を発揮します。
ガスバリア性、保香性に非常に優れますが吸湿すると低下します。
機械的強度とくに剛性が高く、耐摩耗性にも優れ、非帯電性です。
・アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体樹脂(ABS樹脂)
上記の3種のモノマーを原料としますが、
実際にはブタジエン系のゴムの存在下でスチレン、アクリロニトリルをグラフト共重合して製造します。
非晶性であり、不透明です。
機械的強度に優れ、剛性があり、堅牢でバランスのとれた機械的性質を持ちます。
耐熱性は一般用途では充分で耐寒性にも優れ、成形収縮率が小さく、成形加工性も優れます。
表面光沢も良好で外観部品に適しており、着色性、めっき性にも優れています。
酸・アルカリには極めて強い一方で、耐候性には問題があります。
・ポリエチレンテレフタレート(PET)
結晶性の熱可塑ポリエステルで、
耐熱性、電気的性質、ガスバリア性、耐疲労性、耐薬品性等に優れます。
エステル結合を持つため耐熱水性、耐アルカリ性は劣ります。
優れた性質からフィルム、ボトル分野では広く使用されていますが、
結晶化速度が遅く、射出成形分野での使用例は多くありません。
・ポリメタクリル酸メチル(PMMA)
非晶性樹脂で、代表的なアクリル樹脂のことを指します。
汎用的なプラスチックでは最も透明性が優れています。
耐候性、表面光沢も優れ、硬度も高いです。
水、塩、弱酸には耐えますがアルカリには侵され、有機溶媒に溶けます。
吸水性が比較的大きいのも特徴です。
2、エンジニアリングプラスチック(エンプラ)
・ナイロン(PA:ポリアミド)
ナイロンは機械的性質、特に耐衝撃性に優れた結晶性樹脂です。
耐摩擦・摩耗性、耐薬品性(鉱酸、フェノールを除く)、耐油性、ガスバリア性などに優れています。
融点が高く、化学構造により吸水性が高いことも特徴です。
この吸水により寸法変化が大きく、機械的強度は低下しますが、柔軟性、耐衝撃性は増加します。
一部のナイロンは吸水性が高いので、成形時および製品設計の際には注意が必要です。
・ポリカーボネート(PC)
PCは非晶性樹脂で、汎用エンプラ中唯一の透明性樹脂になります。
成形収縮率が小さく、寸法精度が良好で、吸水率が少ないので寸法安定性に優れています。
強度、特に耐衝撃性が非常に大きく、クリープが小さいです。
また、電気的性質も非常に良好ですが、耐薬品性は良好ではなく、ストレスクラックを起こしやすいです。
PCはエステル結合を持つため、一定量以上水分を含んで加熱成形すると、
加水分解を起こし物性低下などを起こします。
したがって、使用に先立ち予備乾燥が必要になります。
・ポリアセタール(POM:ポリオキシメチレン)
バランスのとれた機械的性質を持つ結晶性樹脂です。特に耐疲労性に極めて優れています。
耐摩擦・摩耗性、耐薬品性、耐クリープ性、寸法安定性に優れており、吸水性も少ないです。
ただ、分子中に酸素を多く含むため難燃性の付与は難しく、耐候性はよくありません。
・変性ポリフェニレンエーテル(変性PPE)
変性PPEは非結晶樹脂で、PPEとスチレン系樹脂のポリマーアロイが中心です。
広い範囲で機械的性質(剛性、耐衝撃性、耐疲労性)が安定しており、電気的性質も優れています。
比重、吸水率が汎用エンプラ中最小で、耐熱水性も優れます。
また成形収縮率が小さく、寸法安定性、寸法精度が優れています。
・ポリブチレンテレフタレート(PBT)
PBTは、強靭で、剛性も高く、耐熱性、長期耐熱性、成形加工性が優れた結晶性樹脂です。
電気的性質も広い範囲で良好で、耐候性、耐薬品性も優れた物性バランスを持ちます。
難燃化も容易なため、電気・電子用途にも向いています。
エステル結合を持つので、耐熱性、耐アルカリ性が問題となる場合があり、使用前の予備乾燥が必要です。
・ガラス繊維強化ポリエチレンテレフタレート(GF-PET)
GF-PETは、結晶化速度が遅く成形性に問題がありましたが、
結晶性改良グレードが開発され、成形性が著しく改良されました。
ただ、結晶化速度そのものはPBTを比較して劣ります。
優れた耐候性、耐薬品性、電気的性質を持ちます。
・ポリフェニレンスルフィド(PPS)
PPSは、重合法により架橋型、半架橋型、直鎖型に分けられます。
非常に耐熱性が高い結晶性樹脂で、機械的強度、剛性、難燃性、
耐薬品性、電気的性質および寸法安定性に優れます。
流動性にも優れていますが、バリが出やすいのも特徴です。
・フッ素樹脂(FR)
分子中にフッ素を含有する樹脂でポリテトラフルオロエチレン(PTFE)など10種類以上あります。
他の高分子材料と比較して、耐熱性、耐薬品性、耐候性、電気的性質が極めて優れ、
非粘着性、低摩擦・摩耗性、撥水・撥油性などユニークな性質を持ちます。
PTFEは、溶融粘度が非常に高いため射出成形は不可能ですが、他のフッ素樹脂は射出成形が可能です。
一般的に、フッ素含有量が高いものは、耐熱性、耐薬品性に優れますが成形加工性が劣ります。
逆にフッ素含有量が低いものは、成形加工性、機械的性質が優れています。
・ポリアリレート(PAR)
PARは、透明性の非晶性樹脂で、耐熱性、耐衝撃性、耐候性、難燃性に優れています。
曲げ変形などの歪み回復性にも優れ、吸湿性が小さく、
環境変化に対しては安定した電気的性質を持ちます。
・液晶ポリマー(LCP)
溶融粘度が非常に低く、流動性が良好で、固化速度が速いためバリが出にくい材料となっています。
自己補強効果を持ち、高強度・高剛性である一方で、異方性が大きいです。
線膨張係数、成形収縮率が小さいので寸法特性が非常に良好で、精密部品に適しています。
耐薬品性に優れ、溶解する有機溶媒はほとんどありません。
また難燃性にも優れ、振動吸収能力が高く、電気的性質も良好です。
・ポリスルホン(PSU)
PSUは琥珀色透明の非晶性樹脂です。
耐熱性、耐加水分解性に優れ、高温でも酸、アルカリ、熱水に対して安定しています。
また、耐クリープ性、低温特性、機械的性質、電気的性質に優れていますが、
耐候性はあまり良好ではありません。
・ポリエーテルスルホン(PES)
PESは琥珀色透明の非晶性樹脂です。
耐熱性、耐加水分解性、難燃性に優れ、寸法安定性が良好です。
特に180℃までの耐クリープ性は熱可塑性樹脂中最高クラスを誇ります。
耐薬品性も良好で、耐ストレスクラック性は非晶性樹脂中最も優れています。
耐候性はあまり良好ではありません。
・ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)
PEEKは、従来にない特性を備えた樹脂で非晶性樹脂と結晶性樹脂の特徴を併せ持つ材料です。
熱可塑性樹脂中最高レベルの耐熱性、耐熱変形性を有し、
高い難燃性と同時に燃焼時の発煙や耐食性ガスの発生が極めて少ないです。
耐熱水性、耐放射線性、耐薬品性は非常に良好です。
・ポリエーテルイミド(PEI)
PEIは琥珀色透明の非晶性樹脂で、優れた耐熱性を持ちます。
機械的強度を持つイミド結合と、良好な加工性を示すエーテル結合が組み合わされたものになります。
優れた耐熱性、機械的性質、難燃性、電気的性質、環境特性を持ち、燃焼時の発煙量も少ない。
・ポリアミドイミド(PAI)
PAIは非晶性樹脂で、優れた耐熱性と機械的性質を持つイミド結合と、
良好な加工性、強靭性を持つアミド結合が、交互に組み合わされたものです。
耐熱性、機械的性質(特に耐衝撃性)、耐疲労性、難燃性、摩擦、摩耗特性に優れます。
また耐薬品性、耐ストレスクラック性にも優れており、電気的性質も良好です。
3、その他の射出成形用材料
・繊維素系プラスチック
植物成分の繊維素(セルロース)のアルコール性水酸基を、
エステルまたはエーテル変性等を行うことで得られる成形材料です。
世界初のプラスチックであるセルロイドを含みます。
その他には、アセテート、プロピオネート、エチル誘導体、セロハン等もあります。
生産量は少ないものの、各種用途に使用されており、強靭で機械的性質に優れています。
透明性で光沢が良好であり、成形加工性、寸法精度に優れます。
セルロイドは易燃性ですがセルロースアセテートは難燃性です。
・生分解性プラスチック(グリーンプラ)
通常のプラスチックと同等に成形、使用することができつつ、
使用後は自然界の微生物や分解酵素と水と炭酸ガスに分解されるプラスチックです。
このため廃棄物の処理の際、地中に埋め立てが可能となります。
焼却時の発熱量も少なく、有害ガスを放出しません。
微生物系、天然物系、化学合成系、それらの複合物の4種類のものがありますが、
各種の生分解性プラスチックの特徴は、材料によって異なり、成形性も変わるので注意が必要です。
・熱可塑性エラストマー(TPE)
常温では加硫ゴムの性質を示しますが、高温では塑性変形しプラスチックの成形加工機で成形できます。
主に分子構造の差により、ポリスチレン系、ポリオレフィン系、ポリジエン系等に分類されます。
ゴムに比べ、成形サイクルが短縮でき、スクラップ等を再生できること、
加硫剤が不要なので純粋なゴム製品ができることや、新規用途も開発されているという利点があります。
ただ、加硫ゴムに比べて温度上昇に伴う物性低下が大きく、耐熱性が不十分で、
永久歪みが大きく、耐久性、繰り返し疲労性が劣り、コスト高のものが多い等の欠点もあります。
熱可塑性エラストマーも種類により成形性が変わるので注意が必要です。
いかがだったでしょうか。
今回は射出成形の材料について記してみました。
木成ゴム株式会社では、樹脂の射出成形品を取り扱っております。
金型の製作から成形まで、一貫してご対応させていただいておりますので、
まずはお気軽にご相談ください。