滑りやすい樹脂は?主要な材質の特徴を詳しく解説
機械部品や搬送設備では、部品同士が接触しながら動く箇所が多くあります。
例えば、軸受け、ガイド、ローラー、スライド部品、ギア、ライニング材などです。
このような摺動部品では、材料の「滑りやすさ」が重要になります。
滑りやすい樹脂を使用すると、動作時の抵抗を抑えられるほか、
摩擦による発熱、異音、摩耗などの低減につながる場合があります。
樹脂には、PTFE、POM、UHMW-PE、MCナイロンなど、滑りやすさに優れた材質が複数あります。
ただし、摩擦係数が小さい材料が、あらゆる用途に適しているとは限りません。
荷重、速度、温度、相手材、耐摩耗性、寸法安定性などを総合的に確認する必要があります。
本記事では、滑りやすい代表的な樹脂の特徴や用途、材質ごとの注意点、
選定時に確認したいポイントについて詳しく解説します。
目次
1、樹脂の「滑りやすさ」とは
樹脂の滑りやすさとは、材料同士が接触して動く際に発生する摩擦抵抗の小ささを指します。
工業分野では、「摺動性」「低摩擦性」「自己潤滑性」などの言葉で表現されることもあります。
滑りやすい樹脂を使用することで、次のような効果が期待できます。
- 部品を動かすための力を抑えられる
- 摩擦による発熱を低減しやすい
- 動作音や振動を抑えやすい
- 潤滑油の使用量を減らせる場合がある
- 部品同士の引っ掛かりを抑えられる
- 摩耗による交換頻度を低減できる場合がある
ただし、樹脂の滑りやすさは、材料単体の性質だけで決まりません。
相手材の種類、表面粗さ、荷重、速度、温度、湿度、潤滑の有無などによって変化します。
そのため、カタログに記載された摩擦係数は、あくまで材料選定の目安として扱い、
実際の使用条件に近い環境で確認することが重要です。
2、摩擦係数と耐摩耗性の違い
滑りやすい樹脂を選ぶ際には、摩擦係数と耐摩耗性を分けて考える必要があります。
摩擦係数は、部品同士が接触して動く際の抵抗を示す数値です。
一般的には、摩擦係数が小さいほど滑りやすい材料といえます。
一方、耐摩耗性は、接触や摺動を繰り返した際に、材料が削れにくいかどうかを示す性質です。
例えば、PTFEは非常に摩擦係数が小さい樹脂ですが、荷重が大きい場合には変形しやすく、
使用条件によっては摩耗が進むことがあります。
一方、UHMW-PEはPTFEほど摩擦係数が小さくない場合でも、耐摩耗性や耐衝撃性に優れています。
3、PTFE樹脂の特徴
PTFEは、フッ素樹脂の一種です。非常に小さい摩擦係数を持つことから、
滑りやすい樹脂の代表として知られています。
主な特徴は次のとおりです。
- 摩擦係数が非常に小さい
- 非粘着性に優れる
- 耐薬品性に優れる
- 耐熱性に優れる
- 吸水性がほとんどない
- 電気絶縁性に優れる
PTFEは、部品同士の摩擦抵抗をできるだけ小さくしたい用途に適しています。
具体的には、スライドシート、軸受け、ガイド、シール部品、
パッキン、摺動ライニングなどに使用されます。
また、薬品に接触する環境や、潤滑油を使用しにくい環境でも候補になります。
一方、PTFEは比較的柔らかく、荷重によって変形しやすい性質があります。
高荷重の軸受けや寸法精度が重要な部品では、ガラス繊維、
カーボン、ブロンズなどを配合した充填材入りPTFEが検討されます。
PTFEは接着が難しい材料でもあるため、接着加工や他材質との複合加工を行う場合は、
表面処理の有無も確認する必要があります。
4、POM樹脂の特徴
POMは、ポリアセタールまたはポリオキシメチレンと呼ばれるエンプラです。
POMは、滑りやすさだけでなく、機械的強度、剛性、
耐摩耗性、寸法安定性、加工性のバランスに優れています。
そのため、精度が求められる摺動部品に多く使用されます。
主な用途は次のとおりです。
- 軸受け
- ギア
- ローラー
- スプロケット
- ガイド部品
- スライド部品
- 精密機械部品
PTFEと比較すると摩擦係数は大きくなる傾向がありますが、
POMは硬さや寸法安定性に優れています。
荷重が加わる機械部品や、クリアランス管理が重要な部品では、POMが適する場合があります。
また、POMには、摺動性を高めたグレードや、PTFEなどの潤滑成分を配合したグレードもあります。
ただし、強酸、強アルカリ、高温の水、蒸気などには注意が必要です。
使用環境によっては、標準POMではなく、耐薬品性や耐熱性を考慮したグレードを選ぶ必要があります。
5、UHMW-PEの特徴
UHMW-PEは、超高分子量ポリエチレンのことです。
一般的なポリエチレンよりも分子量が大きく、滑りやすさと耐摩耗性を兼ね備えています。
主な特徴は次のとおりです。
- 摺動性に優れる
- 耐摩耗性に優れる
- 耐衝撃性に優れる
- 軽量である
- 耐薬品性に優れる
- 吸水性が小さい
- 非粘着性に優れる
UHMW-PEは、搬送設備やライニング材に多く使用されます。
例えば、コンベヤのガイド、シュート、ホッパーの内張り、
搬送物の滑り面、スライド部品などが代表例です。
搬送物が引っ掛かりやすい箇所や、金属同士の接触による傷を抑えたい箇所にも適しています。
一方、POMやMCナイロンと比較すると、剛性や寸法安定性は低くなる傾向があります。
高温環境や高荷重環境では変形しやすくなるため、
面圧、使用温度、支持方法を確認することが重要です。
6、MCナイロンの特徴
MCナイロンは、モノマーキャストナイロンとも呼ばれるナイロン系樹脂です。
機械的強度、耐摩耗性、耐衝撃性に優れ、比較的大型の機械部品にも使用されます。
主な用途は次のとおりです。
- 軸受け
- ローラー
- 車輪
- ギア
- スプロケット
- ガイド部品
- ライニング材
MCナイロンは、POMと比較して高荷重や衝撃に対応しやすい場合があります。
大型のローラーや車輪、搬送設備の部品など、
強度と耐摩耗性の両方が求められる用途で使用されます。
また、潤滑剤を配合した摺動グレードもあり、
標準グレードよりも滑りやすさや耐摩耗性を高めた製品があります。
ただし、ナイロン系樹脂は吸水性があるため、
水分を吸収すると寸法や機械的特性が変化する場合があります。
湿度の変化が大きい環境、水に接触する環境、寸法精度が厳しい部品では、
吸水による膨張やクリアランスの変化を考慮する必要があります。
7、PET・PEEK・PPSなどの摺動樹脂
摺動用途では、PTFE、POM、UHMW-PE、MCナイロン以外の樹脂も使用されます。
PET樹脂は、耐摩耗性、寸法安定性、電気絶縁性のバランスに優れています。
POMよりも吸水による影響を抑えたい場合や、精密な摺動部品に使用されることがあります。
PEEKは、耐熱性、耐薬品性、機械的強度に優れたスーパーエンプラです。
高温環境や薬品環境で使用される摺動部品に適しています。
ただし、一般的な樹脂と比較して材料価格が高くなる傾向があります。
PPSも耐熱性、耐薬品性、寸法安定性に優れています。
高温や薬液に接触する部品に使用されますが、
滑りやすさだけを重視する場合は、PTFEやPOMなどと比較する必要があります。
このように、滑りやすさを重視する樹脂と、
耐熱性・強度・耐薬品性を重視する樹脂は必ずしも一致しません。
8、滑りやすい樹脂の用途例
滑りやすい樹脂は、さまざまな機械設備で使用されています。
例えば、軸受けやブッシュでは、
軸と部品の接触による摩擦を抑えるためにPOM、PTFE、MCナイロンなどが使用されます。
搬送設備のガイドやスライドレールでは、UHMW-PEやPOMが候補になります。
搬送物の引っ掛かりを抑えたい場合は、UHMW-PEが適することがあります。
ギアやスプロケットでは、滑りやすさに加えて、
歯の強度、耐摩耗性、寸法安定性が必要です。
そのため、POMやMCナイロンが使用されることがあります。
薬品に接触するスライド部品やシール部品では、PTFEやPEEKが候補になります。
食品機械のガイドや搬送部品では、食品接触用途への適合性、
洗浄条件、使用温度なども確認する必要があります。
材質の滑りやすさだけでなく、使用するグレードや加工工程まで確認することが重要です。
9、樹脂を選ぶ際に確認したい使用条件
滑りやすい樹脂を選ぶ際は、次の条件を具体的に整理することが重要です。
まず、荷重を確認します。軽い部品を滑らせるのか、
大型部品や重量物を支持するのかによって、必要な強度や耐クリープ性が変わります。
次に、摺動速度を確認します。低速で断続的に動くのか、
高速で連続運転するのかによって、摩擦熱や摩耗の発生状況が変わります。
また、相手材の種類も重要です。
鉄、ステンレス、アルミ、樹脂など、相手材によって摩擦係数や摩耗の傾向が異なります。
さらに、次のような使用環境も確認します。
- 使用温度
- 水や湿気の有無
- 油やグリースの有無
- 酸・アルカリ・溶剤との接触
- 粉じんや異物の有無
- 屋外での使用
- 食品との接触
- 連続使用か断続使用か
例えば、PTFEは低摩擦性や耐薬品性に優れますが、高荷重では変形に注意が必要です。
POMは寸法精度に適していますが、高温水や強い薬品には注意が必要です。
MCナイロンは強度に優れますが、吸水による寸法変化を考慮する必要があります。
UHMW-PEは耐摩耗性に優れますが、高温・高荷重では変形しやすくなります。
10、まとめ






