ABS樹脂の耐薬品性は?他材質との違いも詳しく解説
ABS樹脂は、電気・電子機器、自動車部品など幅広い分野で使用されている代表的な汎用樹脂です。
耐衝撃性や加工性に優れる一方で、使用環境によっては薬品による劣化や破損が発生することもあります。
そのため、部品選定の際には耐薬品性を十分に理解しておくことが重要です。
本記事では、ABS樹脂の耐薬品性について一般的な特性を解説するとともに、
どのような薬品に強く、どのような薬品に弱いのかを具体的に紹介します。
また、PP・PE・POM・PCなど他の代表的な樹脂との違いについても詳しく解説します。
目次
1、ABS樹脂とは
ABS樹脂は、アクリロニトリル(A)、ブタジエン(B)、スチレン(S)の、
3種類の樹脂成分から構成される熱可塑性樹脂です。
アクリロニトリルは耐熱性や耐薬品性、
ブタジエンは耐衝撃性、
スチレンは加工性や外観性を向上させる役割を担っています。
それぞれの長所を組み合わせているため、
機械加工性と強度のバランスに優れ、多くの工業製品で採用されています。
一方で、耐薬品性については万能ではなく、
薬品の種類によっては短期間で劣化することがあります。
2、ABS樹脂の耐薬品性の特徴
ABS樹脂は、中性洗剤や水、無機塩水溶液などには比較的安定しています。
また、弱酸や希薄なアルカリ水溶液にもある程度耐えることができます。
しかし、有機溶剤に対しては耐性が低く、
アルコール類やケトン類、エステル類、芳香族炭化水素などでは、
膨潤や軟化、割れが発生することがあります。
また、薬品への耐性は薬品の濃度や接触時間、温度によって大きく変化します。
短時間では問題なくても、長期間接触すると劣化するケースも少なくありません。
3、ABS樹脂が比較的強い薬品
ABS樹脂は、次のような薬品に対して比較的良好な耐性を示します。
水や温水では大きな変化は起こりにくく、一般的な使用環境であれば問題なく使用できます。
食塩水や海水などの無機塩水溶液にも比較的安定しています。
希薄な塩酸や希硫酸などの酸性水溶液についても、低濃度かつ常温であれば使用できる場合があります。
水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどのアルカリ水溶液についても、低濃度では比較的安定しています。
また、洗剤や石けん水などにも比較的強く、家庭用品や一般産業機器で広く使用されています。
ただし、高濃度や高温条件では劣化が進行することがあるため注意が必要です。
4、ABS樹脂が弱い薬品
ABS樹脂が特に注意すべきなのは有機溶剤です。
アセトンはABS樹脂を短時間で溶解・軟化させる代表的な薬品です。
メチルエチルケトン(MEK)やシクロヘキサノンなどのケトン系溶剤にも非常に弱く、
ひび割れや変形を生じます。
酢酸エチルなどのエステル系溶剤もABS樹脂を膨潤させやすく、寸法変化や強度低下を引き起こします。
トルエンやキシレンなどの芳香族炭化水素もABS樹脂を侵しやすく、
応力が加わった状態では環境応力亀裂(ESC)が発生することがあります。
さらに、ジクロロメタンやクロロホルムなどの塩素系溶剤はABS樹脂を急速に侵すため、
接触は避ける必要があります。
アルコール類については注意が必要です。
エタノールやイソプロピルアルコールはアセトンほど強い影響はありませんが、
長時間接触や応力が加わった状態ではクラックの原因となることがあります。
5、薬品によるABS樹脂の劣化現象
ABS樹脂は薬品との接触によりさまざまな劣化を起こします。
代表的なのは表面の白化です。微細なクラックが発生すると光の反射が変化し、白く見えることがあります。
さらに薬品が内部へ浸透すると膨潤が起こり、寸法変化や変形につながります。
重度の場合には軟化や溶解が起こり、本来の機械的強度を維持できなくなります。
また、成形時の残留応力がある部品では、薬品との組み合わせによって環境応力亀裂が発生し、
外観上は小さな傷でも内部で急速に破壊が進行することがあります。
6、温度や濃度による耐薬品性の違い
ABS樹脂の耐薬品性は温度や薬品濃度による影響を大きく受けます。
例えば、常温では問題がない薬品でも、60~80℃程度になると浸透速度が速くなり、
膨潤やクラックが発生しやすくなります。
また、希薄な酸やアルカリでは問題がなくても、高濃度になると急激に劣化することがあります。
さらに、薬品への浸漬だけでなく、蒸気や飛散した液体への長期間の暴露でも劣化する場合があります。
そのため、実際の使用条件を十分に確認することが重要です。
7、他の樹脂との耐薬品性の違い
ABS樹脂はバランスの取れた材料ですが、耐薬品性だけを比較すると他の樹脂に劣る場合があります。
PP(ポリプロピレン)は酸・アルカリに強く、多くの薬液タンクや配管にも使用されています。
PE(ポリエチレン)も耐薬品性に優れ、酸・アルカリ・塩類に対して高い耐性を示します。
POM(ポリアセタール)は燃料や油類への耐性が高く、
機械部品によく使用されますが、強酸には弱い傾向があります。
PC(ポリカーボネート)は耐衝撃性に優れますが、有機溶剤によるクラックが発生しやすく、
耐薬品性はABS樹脂と同様に注意が必要です。
このように、耐薬品性を最優先する用途ではPPやPEが選ばれることも多く、
一方で外観性や寸法精度、加工性とのバランスを重視する用途ではABS樹脂が採用されています。
8、ABS樹脂が使用される代表的な用途
ABS樹脂は機械的強度と加工性を兼ね備えているため、多くの産業分野で利用されています。
代表例として、電気・電子機器の筐体、自動車内装部品、
OA機器、住宅設備部品、家電製品、玩具、各種カバー類などがあります。
これらの用途では、水や洗剤程度の接触には十分対応できますが、
有機溶剤が使用される環境では材質変更を検討するケースもあります。
9、ABS樹脂を選定する際の注意点
ABS樹脂を採用する際には、使用する薬品だけでなく、
薬品の濃度、接触時間、使用温度、応力の有無を総合的に確認することが重要です。
また、同じABS樹脂でもグレードや添加剤の違いによって耐薬品性が異なる場合があります。
カタログ上の耐薬品性は一般的な目安であり、実際の使用条件とは異なることも少なくありません。
そのため、重要な用途では事前の評価試験や実機での確認を行うことが望まれます。
10、まとめ






